「大切に使っていただきたい。」
南佐久中部森林組合 職員のみなさん
6月中旬、カラマツT&Tパネルの原料となる木材を供給していただいている森を視察するために、長野県南佐久郡の北相木村(きたあいきむら)へと足を運びました。
北相木村は、村全体の92%を森林が占めており、そのうち70%がカラマツで構成されています。この地は、最上級の品質を持つカラマツの産地として知られていて、車で現場まで移動していると、自然と共生する形で暮らす村の姿を深く感じることができました。
町から続く山道を進むと、道は次第に険しくなります。その山道を進んでいくと、突如として2ヘクタールほどの広範囲が伐採され、開けた空間が現れました。ここが今回訪れたカラマツの伐採現場です。当日は南佐久中部森林組合の職員のみなさんが、細心の注意を払いながら伐採や木材の集積作業を行っていました。
現場に到着すると、南佐久中部森林組合の技師でもある所属9年目の井出(いで)さんが笑顔で迎えてくれ、現場の各部分を丁寧に案内してくださいました。
森を維持する姿勢。
その日は、通常は別々の伐採地で作業を行う2つの班が一緒になり、約2ヘクタールの森からカラマツを伐採していました。
井出さんによれば、「今日見ていただいている伐採後に、下刈りと地ごしらえ(※)をして、60年後に再び木を利用することを視野に入れて、1ヘクタールあたり2500本のカラマツの苗木を植えるんです。」とのこと。
「具体的にはどのように植えるんですか?」との質問に、井出さんは「クワを使って手作業で植えます。」と答えてくれました。
木を伐採する一方で、再び木を植える。この「植える」「育てる」「利用する」を自然な流れとして行う姿勢に、木材を扱う者として改めて感謝の気持ちが湧きます。
(※)地ごしらえ…伐出後に残された幹の先端部や枝、刈り払われた低木や草などを、次に植栽しやすいように整理すること。
経験と技術を伝える。
その時ちょうど、山の上で伐った木を、運びやすい山腹に集積していた班長の飯野(いいの)さんが、作業を一時停止し、私たちのもとへと足を運んでくださいました。
―「お疲れ様です。飯野さんはこの仕事を始めてから何年になりますか?」
飯野さん「(少々照れくさそうに)そうですね、21年目です。」と答えてくれました。
―「ベテランですね。飯野さんのヘルメットには指導員のシールが貼られていますが、それは新人スタッフの指導役を担っているということですね? ベテランと若手の職員さんとで、勤続年数による業務内容の違いなどはあるのでしょうか?」
飯野さん「いいえ、勤続年数によって特定の業務が決められていることはありません。私自身も若い方に様々な作業手順を伝えつつ、比較的、伐採作業は若手に任せることが多いかもしれません。世代交代…といいますか、若い方にとって重要な作業経験を積むことが大切という思いはあります。」
飯野さんは、5年目の職員が山の上で伐採作業を行っている様子を見つつ、「彼は本当に上手ですよ。」と語ってくれました。
私たちと飯野さんの会話が一区切りついたところで、先程の井出さんが「伐採作業の撮影はいかがですか?」と私たちに提案し、急斜面の向こう側で木を伐採中の職員のところへと案内してくれました。
ちょうどその頃、雨が少し降り始めましたが、豪雨にならない限り、森での作業は通常通り行われるようでした。
木を送り出す技術者の想い。
急な斜面を登り、伐採作業場に辿り着くと、ヘルメットをかぶり手にチェーンソーを持って木の側(そば)に立つ所属5年目の技能職員、海藤(かいどう)さんがいらっしゃいました。
私たちが立っている場所の安全性を確認した後、海藤さんが背の高いカラマツの根元に対して地面に平行にチェーンソーを入れ始めました。
手際よく何度か刃を通しカラマツの根元に深い切り込みを入れ終えると、海藤さんは山の頂上側に移動し、反対側からハンマーで何度もカラマツを強く打ち始めます。何度か打つうちに、海藤さんから「木が倒れますので、注意してください」と警告があり、大きなカラマツは切り込みを起点に、麓に向かって真っ直ぐに倒れていきました。
伐採作業を一時中断し、私たちのもとへ来てくださった海藤さんに、次のような質問を投げかけました。
―「現在、家を建てる方々の中には、自宅の材料となる木が育っている場所に強い興味を持つ方が増えているようです。」
海藤さん「そうなんですね。」
―「外国産の木材では出処がはっきりしないこともある中で、国産材ならばこのような取材を通じてその生産現場が直接確認できます。これは家を建てる方々にとって非常に有意義で重要な情報となると思いますが、このような現場で直接木を伐採し、出荷する立場から見て、実際にこれらの木々を暮らしに取り入れるユーザーのみなさんへ何か伝えたいことはありますか?」
海藤さんは少し思案した後、「大切に使っていただきたいですね。」という言葉を私たちに返しました。
そのとき、山の中腹で切られた短幹材を積んだ重機が麓に下りてきました。海藤さんと職員歴の近い小宮山(こみやま)さんです。
海藤さんのとなりに来てくださった小宮山さんにも同じ質問を投げかけると、「長く、大切につかってもらえればありがたいです。」という言葉。
海藤さんや小宮山さんないし森に携わる職員のみなさんは、日々、何ヘクタールもの木を伐採し、製材業者に送り出し、その後、60年後を見据えた整地と植林を行い、森を維持するためのサイクルを繰り返しています。
その「大切に使っていただきたい」「長く、大切につかってもらえればありがたい」というシンプルな言葉の中に、60年周期で「植える」「育てる」「利用する」を実践している現場のみなさんが送り出す「木」に対するダイレクトな想いを感じ取ることができました。
さいごに。
ちょうど、みなさんのお話を聞き終えた頃、集合写真を撮りましょうという呼び掛けに応じて、中腹で重機に乗っていたベテランの新井(あらい)さんが降りてきてくださいました。
みなさんに「最後に笑顔で1枚!」と呼びかけると、新井さんが「普段の仕事と違うから難しいな。」とひとこと。新井さんのひとことでみなさんの表情がほころんだ素敵な1枚となりました。
こんな誠実で人柄の温かいみなさんが伐って育ている「木」。そんな木を大切に使い、豊かな自然を未来へとつなぐきっかけになることが、国産材の森の恩恵を受ける私たちの大切な役割だと感じる取材でした。
取材:2023年6月14日